[音声ガイド]
丸筒には、中に8.01メートルの線が入っていると書かれています。しかし私たちは、その筒を開けて中を確かめることはできません。本当に、その中に8.01メートルの線があるのでしょうか。その答えは、私たちの頭の中にあります。作品を前にして、私たちの頭の中には、それぞれ異なる8.01メートルの線が描かれているはずです。 感覚を直接的に刺激する絵画や彫刻ではなく、頭の中の概念こそが最も純粋で重要であるとする作品を、「コンセプチュアル・アート(概念芸術)」といいます。「コンセプチュアル・アート」は60年代に隆盛し、その後の美術作品に多大な影響を与え続けていますが、本作はその最初期のものであるといえます。
イタリアの鬼才、ピエロ・マンゾーニは、1958年頃から、白一色の絵画によって色彩を否 定した「アクローム(無色)」シリーズによって、一躍時代の前衛に躍り出ました。その 試みは、美術作品における視覚的な効果や精神性の探求から距離を置き、あらゆるメタ ファー(隠喩)、物語性を排除するものでした。白いカンヴァスという絵画の支持面を襞ひ だの集 積として表現したこの作品も、絵画の伝統の重みをはぐらかす、軽やかな挑発となってい ます。 彼は30歳の若さで夭折しましたが、わずか10年の制作期間のほとんどは、物質と精神の 距離を一挙に埋めようとする冒険的精神に貫かれていました。その作品と行為は、後の現 代美術の方法と課題をことごとく予告するものとして、あらためて注目されています。