豊田市美術館について

豊田市美術館は、19世紀後半から現代までの美術、デザインや工芸のコレクションを有する美術館として1995年に開館しました。以来、鑑賞者一人ひとりが作品と対話し、それぞれの作品との関係をつくっていただく場となることを目指して、コレクションの形成、同時代の作家たちとの展覧会やコミッションワーク、市民とともに歩む教育普及活動などを展開してきました。

館長メッセージ

 1995年に開館した豊田市美術館は、1980年代以降各地に開館した美術館の中では比較的新しい美術館と言えるでしょう。それだけに長い歴史を持った美術館のように美術史を網羅するような収集活動や展覧会活動は行ってきていません。全国的な視点から見るとどちらかと言えば、私たちが生きる現代に焦点を当てた展覧会活動によって、存在感を示してきたともいえます。そうしたことから最初はとっつきにくく市民から距離のある美術館という印象を持たれたようです。収蔵作品にはいわゆる現代美術と呼ばれるものが多くあるのは事実ですが、一方でクリムトや岸田劉生をはじめとする近代美術の名品やウィーン工房などの工芸美術も収集しています。また、高橋節郎館では漆工芸の紹介を続けています。そして、展覧会活動も現代と切り結んだ企画展を中心に、時代や地域の幅を広げてきており、来館者数も開館当時に比較して増えてきています。豊田市を訪れる人にとって立ち寄るべき施設の一つとして位置づきつつあるのかもしれません。また、美術館の魅力は収蔵品や展覧会だけでなく、その建築も人々を引きつける大きな要素です。多くの美術館、博物館建築を手がけられた谷口吉生氏の設計による豊田市美術館の建物は、日本で最も美しい美術館の一つとも評されるモダニズム建築で有名です。

 自動車産業の街として知られる豊田市にとってこの美術館は重要な意味を持っています。産業と文化はかけ離れたものではありません。経済活動だけが人間を生かしているのではなく、文化的な刺激は人びとにとって心を生かすためには欠かせないものです。その文化的な刺激の一つとして美術館が扱う美術というのはただ何か対象の再現をしているのではなく、作家が生きる環境の中から、また生きる時代の反映として自らが感じ、考えたことを色彩や形あるいは何かしらの素材を使って表してきたものです。

 私は、「絵を見てもおなかはいっぱいにならないけれど、胸はいっぱいになることがある」という言葉が好きです。美術品を鑑賞する体験が来館されるみなさんにとって、心のどこかに糧として残り続けることを期待してやみません。

豊田市美術館 館長
高橋秀治