[音声ガイド]
前脚から肘掛け、背もたれから反対側の前脚へと一本の木材がカーブを描きながら続きます。背板と後脚、座面と補強用の貫も同様で、この曲木の技術は19世紀半ばにドイツのトーネット社が開発し、パーツごとの生産・組み合わせによる椅子の量産を可能にしました。 郵便貯金局の建築コンペに勝利し、家具調度のデザインも一任されたヴァーグナーは、この曲木を使用した椅子を考案し、部屋の用途や性格にあわせて、塗装の色や座面の素材、金属パーツなどの種類の異なる複数のデザインを用意しました。 合理性や機能性に基づいて素材や技術を選び、そこから必然的に生まれる形と美しさを重視したヴァーグナーですが、肘掛けと脚元の光を反射するアルミニウムは、手入れの必要がなく長持ちするうえに、この椅子に優美さと現代性をもたらしてもいます。