[音声ガイド]
ぷっくりとした頬を赤らめた少年が、黒目がちな目をやや伏せ、赤い唇の端をわずかにあげています。緊張しながら微笑を保とうとしているのでしょうか、それとも、おかしさや気恥ずかしさを堪えて真面目な表情を作ろうとしているのでしょうか。細やかな描写が、少年の微妙な表情を魅力的に見せています。 この作品が制作されたのは1918(大正7)年。同時代の西欧の動向を知る機会や、在野の画家の発表機会も増えるなど、絵画のすそ野が広がり始めた時代です。愛知を拠点としてほとんど独学で絵を学んだ大澤鉦一郎は、この作品のように近所の子どもや風景を丁寧に描いた写実表現で評価を得ていきました。 大澤はこの前年「愛美社」というグループを立ち上げるなど、この地域の若い画家たちの制作と発表を大いに後押しした人物でもありました。