[音声ガイド]
最初に目を惹くのは、葉や茎の繁るなかから伸び上がって咲きほこる、の花のあでやかさでしょうか。葉脈までわかるほどの葉やゆるやかな曲線を描く茎は、ありのままを写し取ろうとするかのように肉厚に描かれています。写実を突き詰めていった画面は雑多な事象から隔絶したような世界が生まれていますが、そこで現実に引き戻すようにひらひらと蝶が舞っています。 5年の間、転々と仮寓の生活をしながら制作に打ち込んできた青樹は、1924年に東京に戻り居を定めます。この頃から徐々に彼の作品には、写生を重んじる表現に、日本絵画が古来より持つ装飾性が加味されていきました。《芍薬》は、彼の大正期の写実的作風が最も成熟し、次の段階へと移行する時期に描かれた作品です。