[音声ガイド]
画面の中央に、ジリジリとこじ開けたような穴があり、暗い闇をのぞかせています。「私が発見したのは穴だ。それが全てです。墓穴に行く前にそんな発見ができてよかった」。この言葉どおり、フォンターナといえば、カンヴァスにいくつもの穴を穿ち、また切り裂いたことで有名です。 風景画でも静物画でも、抽象画でさえも、伝統的に絵画はカンヴァスや板などの平面のうえに、空間の広がりを錯覚させることで成り立っていました。ところがフォンターナは、画面を切り裂くことで、この暗黙の了解を破棄し、平面の向こう側に本当の無限空間を創造したのです。さらに、肉を思わせるピンク色や盛り上がった絵の具の溜まりからは、身体に受けた傷といった暴力性までもが感じられます。
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丸いブロンズの塊に穿たれた深い穴。見ていると、ブラックホールにでも吸い込まれていくような、そんな気分にさえなってきます。私たちが了解している三次元の空間を超え出ることを目指したフォンターナからしたら、狙いどおりと言っていいでしょう。粘土の塊に切り込みや穴を入れた、この「N(Nature/自然)」シリーズは全部で40点制作され、その後ブロンズに鋳造されました。 無造作に丸めたといった具合のごろんとした形と凹凸のある表面、また大胆に掻き出された大きな穴は、フォンターナの手わざを感じさせ、また一方で、私たちがうかがい知ることのできない、太古の自然の造形物のようにも見えてきて、タイトル通り、時空の不思議を感じさせます。