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この椅子は、1903年にモーザーがデザインし、第18回ウィーン分離派展「クリムト回顧 展」の会場で初めて展示されました。同じ年、モーザーは、ヨーゼフ・ホフマンと共に 「ウィーン工房」を設立したのですが、工房が手がけた療養施設サナトリウム・プルカー スドルフのエントランスホールにも置かれたことで、有名になりました。 垂直のラインが際立った立方体のフォルムと、座面の黒と白の格子模様が見事に呼応して います。この格子模様は、初期ウィーン工房のトレードマークと言っていいほど頻繁にみ られるデザインで、日本美術からの影響も指摘されています。ホフマンが担当したエント ランスホール床面も、黒と白の正方形タイルの組み合わせでデザインされていて、建物全 体が見事に調和していたことがうかがわれます。
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コロマン・モーザーは、1903年に生活と芸術の総合を目指してウィーン工房を結成しました。花入れは、この工房の製品として彼がデザインしたものです。格子状に穴の開いた細長い形態は、花入れというにはあまりに華奢で、用途よりも造形性そのものが優先されていたことが分かります。 ウィーン工房結成後、最初に開設された製造部門が金銀細工部門でした。何百もの見本が作られた銀製品は工房の売り上げの大きな部分を占めていたといいます。そのなかでもこの格子柄の製品は商業的な成功をおさめ、今でも初期のウィーン工房を象徴するデザインとみなされています。 花入れのベース部分には、小さな4つの押し型があります。モーザーと工房、職人のモノグラムです。ウィーン工房では、のちに機械化による工場生産を認めることになりますが、これらの型押しからは職人の手仕事を尊重していたことがうかがえます。