[音声ガイド]
時は世紀末。ベルギーのブリュッセルで、骸骨や仮面で仮装した大群がこちらへと行進するなか、今まさにイエス・キリストがロバに乗って片手を挙げたところです。あたりには「キリスト、ブリュッセルの王」「社会主義万歳」などと書かれた旗が舞っています。 実のところキリストが入城するのは2000年ほど昔の聖地エルサレムのはず。異端の画家として不遇をかこっていたアンソールは大胆にも自らをキリストの姿に重ねて――つまり「ブリュッセルの王」として――自身に対して厳しい批評を浴びせ続けた街へと凱旋しているのです。 憤りや怒りなのか、あるいは誇大妄想なのか。細かい幻想的な線描がこの小さな画面を熱気に満ちた世界へと変えています。