[音声ガイド]
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目の前に壁。その浅い空間の中でいろいろなことが起こっています。たとえば画面中ほどの、水平の線のあたりには別の小さな風景が広がっていて、遠くのものと近くのものが同居しています。戦後の東京に育った画家が目の当たりにした、焼け野原から立ち上がる風景が圧縮されているかのようです。 1960年代に絵画を学びながら、いちどは制作から離れてNHKに就職した櫃田は、そこで舞台美術のスタッフが絵具でコンクリートブロックの質感をいとも簡単に再現する職人技に驚いたといいます。この画面の灰色の格子模様は身近な経験や風景に根差しているのです。櫃田はそこに日本の古い絵画の箔の技法や20世紀後半の美術のミニマルな表現を重ね、自身の絵画として立ち上げ直したのでした。 この作品を描いた1975年に櫃田は愛知の芸術大学に教師として赴任します。ここには彼の人生の転機もまた重なっているのです