[音声ガイド]
「立つ、座る、横たわる」。これらを人間の基本的な姿勢としたとき、そのうち「座る」 と「横たわる」には、彫刻家が一生をかけるのにも十分なほどのヴァリエーションがある とヘンリー・ムアは語っています。その言葉の通り、彼の彫刻の中心にはつねに人物のか たちがありました。 とはいえ、それは外形の問題にとどまるものではありませんでした。ムアの芸術家として の原体験の一つが、第二次世界大戦中にロンドンの地下鉄に設けられた防空壕の暗闇にあ ることはよく知られています。空襲の爆音が響くなか、すし詰めに横たわる、あるいは壁 にもたれて座る人々のおぼろげな姿。ムアの人体像は見る角度によってずいぶん印象が異 なりますが、ときに人間の内側のかたちが浮かんで見えることもあります。そこに深い暗 闇があることもまた事実なのです。