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反りあがった枝振りの菊の傍らで、こちらを振り返る猫。首を大きく曲げて足や背中に力を入れ、何かをうかがうような面持ちで動きを止めています。一方で、丸く形の整った菊の紅色が鮮やかです。14歳で画家を志した時から徹底した写生で培った画力で表現を深化させた御舟は、この作品で猫の毛並みや菊の花びら、葉の厚みまで、ひとつひとつを卓越した筆致で繊細に描写することで、現実世界を超えた「かたち」を生み出しました。 1921年から翌年にかけて、御舟は植物と一匹の猫との取り合わせに着目した作品を描きました。この作品でも菊と猫、そして地面の絶妙な配置が、それ以外に何もない空間に魅入るほどの緊張感をもたらしています。御舟が目指した調和の世界が表現されている作品です。
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赤い林檎が三つ、赤い布の上に置かれています。つやつやとした林檎の皮、複雑に折りたたまれた布、こうした同じ赤色の微妙な変化や質感の違いを御舟は丁寧に描き分けています。かわいらしい布の柄にも注目しましょう。 御舟はこの頃、セザンヌからキュビスムへと展開する西洋絵画の影響を受けながら、日本画の技法を用いて存在の本質を描きとる術を模索していました。彼の持ち味であった細密描写に、色彩を塗り重ねることによって立体感を表現する西洋の技法を取り入れることで、東西の絵画技法を駆使した独自の絵画空間を生み出しています。画面四隅の平面的な金色も効果的です。 短い生涯のあいだに日本の近代の絵画の頂(いただき)を目指し、その可能性を誰よりも探究した御舟の作画研究の姿勢をうかがうことができます。