クリムトは1枚の肖像画を制作するために多数のデッサンを描いた画家ですが、仕事では なく、いわば描くことを楽しむために描いた裸婦デッサンも多く残しました。これらの デッサンでもクリムトはモデルを見つめ観察し、単純な描線だけで解剖学的な骨と肉の量 感を的確にとらえていることが分かります。晩年のクリムトはモデルたちのポーズに自然 さを求めました。モデルたちにアトリエで自由にふるまわせて、気に入ったポーズをクリ ムトは次々と紙に写していったといいます。 このデッサンでもクリムトは、モデルが安らかに眠っているからこそ生まれる、自然な肉 体のゆるみを素早くとらえています。
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クリムトは1枚の肖像画を描くために多くの素描を残しました。モデルの女性を何度もアトリエに招いて様々なポーズを描くことで、その人物の肖像画にもっともふさわしい姿を追究するためです。実際の肖像画の制作にはいるまでに、数年が経過することもよくあったといいます。 この素描は当館所蔵の《オイゲニア・プリマフェージの肖像》のために描かれた1点です。油彩画では正面を向いた女性が象徴的に表されているのに対し、素描では身体や衣装の柔らかさが描きだされています。プリマフェージ夫人の姿が作品へと昇華する以前の、生身のモデルを意識できる作品といえるでしょう。
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ロンドン・ナショナル・ギャラリーが所蔵する《ヘルミーネ・ガリアの肖像》(1903/1904年)のために描かれた素描です。クリムトがすばやい筆致でやわらかな衣装や首周りの大きなボアの特徴をとらえ、また女性の両目や袖飾りの部分には色鉛筆で線を加えていることがわかります。 クリムトはモデルの女性にとってふさわしい姿を追究するため、様々なポーズの素描を数多く描きました。肖像画の制作にはいるまでに、数年が経過することもよくあったといいます。この素描もクリムトがヘルミーネの肖像画を完成させるまでの道程で遺した貴重な一枚です。
クリムトは生涯で数千点もの膨大なデッサンを残しています。1890年から1900年頃のデッサンは、やわらかな描線で形状をとらえているのが特徴です。この若い女性を描いた作品は、古代の女性が竪琴を奏でる《音楽Ⅰ》(1895年)のために描かれたといわれます。 またクリムトはデッサンを手放なさないことで知られていました。サインが入っているデッサンは、クリムトが生前に手放したものとされます。繊細なタッチで描かれたサイン入りのこの作品は、クリムトの手から誰に渡ったのでしょうか。空想は広がります。