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リートフェルトは、1918年からこの椅子を、寸法や素材を変えながらいくつも製作してい ます。23年には、無垢の木だったものに、黒と赤・青・黄の三原色を塗るようになり、こ れが「レッド/ブルー・チェア」の名前で有名になりました。 リートフェルトは、普遍的な造形芸術を目指したオランダのグループ「デ・ステイル」に、 結成翌年の1918年から加わりました。この椅子の構想はそれ以前になりますが、平らな座 面と背もたれに、各部をつなぐ角材が作り出す幾何学的な形態は、すでに同時代に生まれ た抽象芸術に呼応していたことをうかがわせます。一方で、部材の接合にダボを使うなど、 家具職人であったリートフェルトの伝統技術が活かされていることも見逃せません。
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椅子は人間の体に沿う道具でありながら、同時に柱と梁、そして壁によって構築される最小の建築でもあります。 左右が非対称のこの椅子は、柱、梁、そして壁のそれぞれのスケールを大小に変化することで、各々の構成要素のあいだに隙間をつくり、パーツがそれぞれ浮遊し、動き出すような印象を生み出しています。 1910-20年代のヨーロッパでは多くの芸術家が抽象的な絵画や彫刻の実験を行い、まったくあたらしい世界を打ち立てようと試みました。はじめ家具職人として活動を始めたリートフェルトも、同時代の作家と交わるなかで彼らの造形思考を取り入れ、やがて傑作と名高いシュレーダー邸によって今までにない建築空間を実現します。 あたらしい空間を備えた建築とそこに住まうあたらしい人間が交わる場としてこの椅子は制作されたのです。