[音声ガイド]
荒々しく揺れ動くかのような色面。上部に配された不安定な赤いかたち。この作品は、限られた色と形の濃淡でできた抽象画のように見えます。タイトルは《大根おろし》。ここで私たちの意識は一変するでしょう。観る者を包み込むこの大きな画面に描かれているのは、大根おろしの表面なのです。大根おろしに醤油と七味唐辛子をかけた部分を、輪郭を入れずに拡大して描くという単純な発想で生み出されたこの作品は、実は具象画なのです。 この作品において福田は、人が知覚するものの質感や大きさは、ものとの距離で変化することに着目します。至近距離から大根おろしを見つめて描く。それにより具象絵画であるにも関わらず、色と形のみで自己表現を試みたかのような抽象絵画同様の様子を獲得したのです。ものの見え方や認識の不確かさについて、この作品はユーモアを交えて私たちに問いかけてくるのです。