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トルソとは、頭部や腕、脚のない胴体部分のみの彫像のことです。ルネサンス時代に発見された古代彫刻の多くが、手足や首などを欠いていたことに由来します。しかし、それらの古代彫刻は理想的な人体を表現したものとして、高く評価されてきました。 ブランクーシのトルソも、この伝統に属していると言えます。ただ、この作品では肩もなく、胸から下の胴体と太ももが三つの円筒の組み合わせのみで表現されています。ブランクーシにとっての理想的な人体像とは、写実的なものではなかったようです。それでもこの作品からは、ほとばしる若々しさ、力強さ、凛々しさといったものが伝わってくるようです。ブランクーシは「若い男」の本質的なものだけを表現するために、余分な要素をそぎ落としていったのでしょう。
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常にものごとの本質を追究したブランクーシにとって、数多く制作した動物の彫刻においても、その特有の性質を表現することが主要な関心事でした。鳥は飛ぶこと、魚は泳ぐこと、というように。ではニワトリはどうでしょう。その答えはブランクーシ自身が語っています。「形状でも形態でも、私は、このにわとりを鳴かせようとしたのです。そうです。私はにわとりを鳴かせたいのです」。 くちばしを空に向け、コケコッコーと勢いよく鳴き声を上げるにわとりが目に浮かびます。作品の下側のジグザクの形態は、力いっぱい喉を震わせている姿なのでしょう。また、鏡のように磨き上げられた表面、上に向かって先細っていく形態は、天に向かって飛翔する勢い、この鳥にとっては叶わぬ夢をも表しているようです。
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ふっくらした頬に大きな額、気持ちよさそうにすやすや眠っている、なんとも愛らしい幼児の頭部です。写実的な表現であり、顔や髪の凹凸には印象派のような光の効果も見て取れます。対象のかたちをしっかりと把握し、またその本質を捉えようとする眼差しを感じさせる作品です。 対象と真摯に向き合うブランクーシの彫刻は、その後、本質の探究に重きが置かれ、形態を単純化させていきます。ブランクーシ自身はこの過程を次のように語っています。「事物の真の意味に近づくと、誰でも自分自身に反して、単純性に到達してしまうのである」。この幼児の頭部も最終的には、表面がつるりとした完全に抽象的な卵型の彫刻《世界のはじまり》へと至ります。