[音声ガイド]
のどかな風景に青い、大きな傘が点在しています。クリスト&ジャンヌ=クロード夫妻が1991年に茨城県で実現したアンブレラ・プロジェクト(カリフォルニアと同時開催)では、高さ6m、直径8.69mの傘が、約19㎞の範囲になんと1340本も並べられました。プロジェクトの実現に向けて450点に及ぶドローイング類の制作をはじめ、人々の協力を仰ぐための交渉など6年もの歳月を費やしました。そのための資金は、ここに展示されているようなドローイングや設計図の販売で捻出され、外部からの資金援助を一切受けないことで彼らは芸術家としての自由を手にしたのです。 傘が設置されたのはたったの18日間のみで、現在はこの光景を見ることはできません。しかし、一瞬だけ現れて消えることが重要なのです。 アートとは楽しく美しく儚いものであり、生きることにほぼ等しいと語るクリスト夫妻は、このように公共の空間を一時的に変貌させる作品で人々の記憶に残り続けています。
[音声ガイド]
「梱包」というタイトルが示すとおり、何かを布で包み、紐で縛った作品。包み込まれたものが何であるのかは明らかにされていません。中にあるものの凹凸に沿うように紐が回され、布のふくらみがその形状をかすかに伝えていますが、やはりそれが何かは不明なままで、なんとももどかしく謎めいた作品です。観る者の視線を拒絶し、それがかえってそこに何かがあることを喚起し、私たちの好奇心をそそります。 日常の空間においては特に注意を払われることもなかったものを隠したり、文脈をずらしたり、過剰に集積させたりと何らかの異化作用を施し、美術品として視覚の対象へと変容させる行為は、クリストや同世代の作家たちに少なからず見られた表現です。それは、あらゆるものに鑑賞され、語られる権利を与える、開かれた可能性を示しています。