[音声ガイド]
さび付いたブリキのビスケット缶が階段状に並べられ、そのひとつひとつの段の上に、あどけない子どもの顔写真が電球によって照らし出されています。まるで教会の祭壇のように厳かな雰囲気があります。 この作品の題名は《聖遺物箱(プーリムの祭り)》。プーリムの祭りとは、旧約聖書にあるユダヤの民が虐殺を免れたことに由来する祭りですが、これはホロコースト(ナチス・ドイツによるユダヤ人の大量虐殺)のおぞましい過去の記憶をも暗示させます。写された子どもたちが誰なのか、いま生きているのか、死んでいるのかを知る手がかりはありません。しかし、いずれにしても、記憶された過去の姿は現実にはもうどこにもないのです。そして今、この文章を読んでいるあなたも、時間の経過とともに過去のものとなり、消えていくのです。 「我々は日々、死んでいく」これはこの作品の作者、クリスチャン・ボルタンスキーの言葉です。