[音声ガイド]
《冬の旅》は、荒木経惟の写真にモデルとして数多く登場する妻・陽子とのささやかな暮らしから、さらには陽子が不治の病になり、入院して葬式が終わるまでの経過を克明に収めたものです。病室で笑顔をみせる陽子、見舞いの途上のふとした光景、病室から見える空、陽子がいぬまま過ごす猫、最後の時に再び開いたという花。これらの光景が、ポケットカメラの日付とともに記録されています。荒木は、女性の裸体を通して生/性を写し取る写真家として知られています。この《冬の旅》のシリーズは、すべてが胸の痛くなるような日常の出来事です。荒木のすべての写真が単なるエロティシズムを超えているのは、人生の束の間の真実を切り取っているからでしょう。