[音声ガイド]
ごつごつとした岩山のような上半身と、細く奥へと引き伸ばされた頭部。目の玉は暗く深い穴のようで、私たちは思わずそこに引き寄せられ、この像に真正面から向き合ったまま身動きがとれなくなるほどです。 モデルを務めたのは弟のディエゴです。ジャコメッティは1950年代前半に集中的にディエゴの胸像を制作しました。とりわけ顔に集中してみられる傷のように細かな表面の凹凸は、繰り返し繰り返し、粘土を盛り上げては削りと制作を続けたためで、その気の遠くなるような作業に根気よく付き合ったディエゴとの深い信頼関係もしのばれます。 ジャコメッティは、目を閉じればすぐに逃げ去ってしまう不確かな人間の姿に確かな形を与えようと、格闘し続けたのでした。
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勢いよくペンを走らせて描かれた男性の顔。その下に印刷された文字が見えます。ジャコメッティは、ちょっとしたカフェでの会話の最中にも、気になると手近な新聞紙やナプキンにペンを走らせ、数えきれないほど多くのドローイングを残しました。書籍の目次ページを用いたこの作品も、そうしてできた1枚でしょう。描かれているのは弟のディエゴで、家具製作の傍ら兄の仕事を献身的に助け、また幾度となくモデルを務めました。 素早いペンの運びは、イメージを逃すまいとする思いの表れでしょう。正面から真っ直ぐにこちらを見つめる丸い目はひときわ印象的で、ジャコメッティが生きた人間の眼差しから、その存在の核心をつかみ取ろうとしていたことがうかがわれます。